中医学(中国漢方)的な食養生の考え方のポイント

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【中医学の中で重要な位置】

中医学の治療体系は、大きく分けて、1.薬物療法、2.鍼灸療法、3.食養生から構成されています。

ともすれば、1.と2.の治療面にのみ目が行きますが、本来は日常の食養生を含めた総合的なもので、必要不可欠な部分と言ってもいいでしょう。
長い歴史を通じて、近代栄養学とは異なる体系を築き上げてきた中医学の食養の歴史的な流れ、考え方、具体的な食物の性質や効用についてお話しましょう。
【食養生成立の歴史】

中国において、医学が著しい発展を遂げたのは、紀元前400年頃といわれています。

古代中国王朝の一つである周代の官制を記した「周礼」という書物には、当時すでに、「食医」「疾医(内科医)」「瘍医(外科医)」「獣医」という四階級の医師の存在を明記しています。
その中で最も重要視されていたのが、食事指導に携わる食医であったとされています。

秦代(紀元前221~206)になると、不老長寿の薬・食物を探し求めた有名な秦の始皇帝や漢の武帝に代表されるように、薬物・飲食物についての研究もすすんでいきます。

前漢(紀元前206~紀元6)に入ると、「黄帝内経」があらわされます。
これは、黄帝と臣下の医師との問答形式でつづられているもので、基礎医学的な生理や病理、日常の養生について記した「素問」と、経絡的な考えなどを書いた「霊枢」から構成されています。

とくに素問では、自然や飲食物との調和について述べています。
たとえば、身体を養い、必要欠くことのできない食物として、「穀(養)・蓄(益)・菜(充)・果(助)」をあげ、その種類と働きについて記しています。
近代栄養学が生まれるはるか古代に、バランス食の重要性を説いています。

後漢時代(25~200)には、中国最古の薬物書である「神農本草経」が登場します。
“神農、百草をなめて医薬あり”という有名な言葉があるように、毎日さまざまな草をなめ歩いて、人体への効果を確認したとされます。

その集大成である同書では、365種類におよぶ薬物や一部食物について「上薬」「中薬」「下薬」に分類して、その効用を説いています。
最古の薬物書とされますが、上薬、中薬には、日常よく使われる食物が多くふくまれており、身体を養ううえで、食物の重要性をよく表わしています。

唐代(618~907)を経て、その後、食物の分野は食事療法という一つの専門の学問を形成するまでに発展し、今日に至っています。
【中医学の食養生とは】

このような歴史的経過をたどって発展し、体系化されてきた中医学の食養の考え方をまとめてみると、次のようになります。

1.薬食同源
最近、薬膳ブームなどを通して盛んに使われる言葉です。
中医学では、薬と食物とは一体のものという解釈があります。
古代からの長い生活の中で、味覚的に食べやすいものを日常的な食物としてとらえ、身体に変化をきたす偏性の大きいものを薬物として利用するようになったと考えられます。
薬食一体の歴史といえるでしょう。

2.一物全体
近代栄養学と大きく異なる点で、食物を全体としてとらえる考え方です。
食品成分表には、「廃棄率」という項目が設けられているように、食べられる部分と廃棄する部分があると近代栄養学ではしています。
ところが中医栄養では、食物を全体としてとらえ、その効用を健康維持に役立てます。
たとえばミカンの場合には、実の果汁は胃腸の熱をとり、利尿作用もあります。
皮の部分は干して陳皮となり、陳皮粥として日常食したり、方剤には理気薬として用いられます。
また魚も、頭から内臓、尾まで全体が生きていると考え、その全てを摂取します。
野菜や食肉も同様の考え方をします。

3.天一合一思想
人間は、地上に存在する他の動物や植物と同じように、自然界の構成要因の一つであり、自然の大きな循環の中で生かされている、とする考え方です。
宇宙自然の運行に従うことが健康維持に欠かせないということです。
【食の味によって異なる作用】

生薬に薬能、薬性、薬味があるように、食物にも食能や食味、食性があり、それらをよく知ることが大切です。
食物には大きく、酸・苦・甘・辛・鹹の5種類の味があり、それぞれの味によって特有の効用をもちます。

1.酸味
酸味の食物は収れん作用、消炎作用があり、寝汗、長引く下痢、尿の出すぎなどに効果があります。
おもな食物に、レモン、ミョウガ、梅、トマト、スモモ、ヨーグルトなどがあります。

2.苦味
苦い味の食物は、瀉出し、水滞を乾かし、堅める作用があり、熱証や体内に湿気がこもって起こる病気に効果があります。
おもな食物に、食肉や魚の内臓、海藻類、にがうり、セロリ、ピーマン、グレープフルーツ、コーヒー、お茶などがあります。

3.甘味
甘い味は、人体の衰えを補養し、痛みを緩和します。
滋養強壮作用があるので、身体気血の虚に有効です。
おもな食物は、穀類、芋類、卵、乳、肉、魚、果実、蔬菜など広範囲にわたります。

4.辛味
辛い味は、身体を温めて発散させ、気血のめぐりをよくする作用があります。
おもな食物に、葱、大根、ニンニク、ニラ、生姜、胡椒、山椒などがあります。

5.鹹味
しおからい味は、やわらげて潤す作用があります。
皮膚の下にできるしこり、リンパの腫れ、便秘などに効果的です。
おもな食物に、塩、大麦、しょうゆ、味噌、つけ物、塩蔵魚肉類、貝類などがあります。
【食物の性質】

ある食物を食べた時に、人体がどのような反応を示すのか、経験に基づいて、温、寒、平という性質(食性)がすべての食物についてわかっています。

1.温性……食べた後で、体が温かくなる性質の食物で冷えを除く効果があります。

2.寒性……食べた後で、体が涼しくなる性質の食物で清熱作用があります。

3.平性……食べた後、温性、寒性のどちらの作用傾向もない、比較的穏やかな性質の食物です。

調理方法によっては異なってくる場合もありますが、広い意味では、にちじょうの食品として毎日でも食べられるものを指します。
【基本的な食養生の考え方】

日常、何気なく食べている食物も、食味・食性という大切な要素を持っているわけですが、食物の摂取は、個人の体質、居住条件、年齢、性別、四季の条件などによって、微妙に異なってきます。

I.体質による食物の運用

体質による食物の運用は、大きく分けて1.虚寒のタイプと2.実熱のタイプになります。
それぞれ、とるべき食物、控える食物が決まっています。

1.虚寒のタイプは、補温性に属する食品――食性では温性のもの、食味では甘味と辛味のものを比較的多くとるように心がけます。

2.実熱のタイプは、瀉涼性に属する食品――食性では寒性のもの、食味では酸味と苦味のものを比較的多くとるように心がけます。

II.環境による食物の運用

1.季節の条件
日本は、春夏秋冬という四季の彩りに恵まれています。
しかし、四季の気候変化は、それぞれの特有の自然条件を持ち、人体の生理機能にも、直接、間接的に影響を与えます。
ですから、日常の飲食においても、四季の条件を考慮していく必要があります。

 ●春の食養生のポイント
春の自然条件は“風”であり、風邪が発生しやすくなります。
風邪は、主に身体の上部を侵し、頭痛、くしゃみ、咳、鼻づまりなどの症状が特徴ですが、こうした風邪に対しては、生姜、葱、紫蘇、菊花など、発散の作用のある食物を食べるようにします。

 ●梅雨期の食養生のポイント
梅雨期の自然条件は“湿”であり、湿邪による病が発生しやすくなります。
湿邪は陰性で脾を犯しやすく、食欲不振、消化不良、下痢、胃が重苦しい、浮腫などの症状が特徴です。
湿邪に対しては水分の代謝をよくすることが原則ですから、ハトムギ、トウモロコシの花柱、スイカ、小豆など利水効果のある食物をとるようにします。

 ●夏の食養生のポイント
夏の自然条件は“暑”であり、暑邪による病が発生しやすくなります。
暑邪は、多汗、口渇などの熱症状とともに、四肢倦怠、食欲不振、下痢などの症状が特徴です。
暑邪に対しては、スイカ、梨、野菜のしぼり汁、緑豆など、発熱や口渇に効用のある食物が適しています。

 ●秋の食養生のポイント
秋の自然条件は、“燥”であり、口、鼻、咽喉の乾燥、口や皮膚のかさつきなど、燥邪による症状が多くなります。
燥邪に対しては潤すことが原則ですから、アンズの仁(杏仁)、水分不足を補う梨、柑橘類の汁などが適しています。

 ●冬の食養生のポイント
冬の自然条件は“寒”であり、寒邪による病が発生しやすくなります。
寒邪は、肌を守る陽気を傷つけ、悪寒、発熱、頭痛、手足の冷え、下痢、さらに吐き気、腹痛などの症状を伴うこともあります。
寒邪に対しては温めることが原則ですから、生姜、茴香、肉桂などを用いて、加熱処理の調理をすると効果があります。

2.居住条件
人は、住む土地によって、自然条件、生活環境が異なりますから、生理機能にも違いが生じてきます。
日常の食物もそれらを考慮していく必要があります。

3.年齢・性別
男女の別や年齢的な条件も十分に考える必要があります。
たとえば女性は、月経、妊娠、出産、授乳などの時期や、小児や老人は、日常の食物に十分配慮が必要です。
飲食全般の注意事項

食養生についての基本的な考え方を書いてきましたが、最後に飲食全般の注意事項について、量と偏りの点からまとめてみます。

1.食事の量について
個人の適量を守ることが原則の一つです。

(i)少食の禁忌…飲食が適量の範囲に達しない場合、滋養の元を失って肉体、精神は機能を失います。

(ii)過食の禁忌…脾胃の能力を超える過量の飲食は、機能が失調して病症が表れます。

2.偏食について
食物には食味、食性がありますが、一つの味・性を偏食すると健康を害します。

(i)寒性偏食の禁忌…果物や瓜類はそれ自体寒性の性質がありますが、さらに冷えたものを摂取しすぎると脾胃の陽気が衰えます。

(ii)温性・辛味の過食の禁忌…葱、唐辛子、生姜などの辛味のものを多量にとり、さらに温熱傾向の料理法だけの食物をとり続けると脾胃に内熱が生じます。

(iii)厚味の過食の禁忌…味が濃く、脂っこい食物の過食は、脂液が脈管に入り気血の運行が阻害されます。

  参考文献・中医栄養学(第一出版・山崎郁子著)
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